蕎麦そのものの純然たる味と香りに出会う
東京・日本橋室町 手打蕎麦 むとう
BGMはジャズ。間接照明で照らされた、心地のよいお店。2011年版のミシュランガイドで星をとった蕎麦屋として記憶に新しい。シンプルな「せいろ」1,000円をいただく。水切り良く、少し太めの喉ごしなめらかな十割。蕎麦の香りが鼻に抜け、その香ばしさに感動する。旨み、甘みが凝縮された戸隠産のそば粉に開店当初からこだわる。一口ごとにその土地の情景が浮かび、蕎麦が大地からの産物だったことを思い出させてくれる。どんなメインディッシュにも勝るかの、堂々たる蕎麦に驚く。「15年打ち続けていると、蕎麦が語りかけてくるんですよね。教えてくれるんです」と、ご主人の武藤鋭介さん。寒い季節は「鴨南蛮」1,800円がいい。ほのかに野性味を残し、柔らかに仕上げた鴨肉と出汁が相まって、絶妙のコクを醸す。
「蕎麦むとう」の定評ある鴨料理の一品。上質の鴨の脂は品のよい味わい、コシのある蕎麦と絡むその瞬間は、口福そのものだ。最後は香り高きそば湯を味わう。出汁に潜む、昆布やカツオの輪郭が浮き出る。「日本人でよかった。そんな感じじゃありませんか?」と武藤さん。そのとおり、そのひとことに尽きる。目に見せぬ仕事の積み重ねを、一すじの蕎麦にじっくりと感じる納得のお店だ。
Photo/ Kazue Shibuya
Text/ Sayuri Hiratsuka
基本情報
記事更新/ 2011.12.19
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