昭和3年、曳き船で有名な京都・高瀬川のほとりに産声を上げた京料理の名店「たん熊」。こちらはその伝統を踏まえつつ精進を重ね、両千家をはじめ谷崎潤一郎ら多くの文人墨客にも愛されてきた。繁華街の喧騒をふと忘れるほど、凛としたたたずまいには老舗ならではの品格が漂う。四季折々の風趣を取り入れた繊細な京料理を旨とする店の冬の名物料理がすっぽんを使った「丸なべ」。「カウンターでお出ししますので、おひとり様でも熱々をおいしく召し上がっていただけます」と店主の栗栖正博さん。初代から付き合いのある陶芸家、平野仁平氏作の赤楽の平鍋を使って供する。新しい鍋を使用する前にはすっぽんの脂を幾度も染み込ませ、香味野菜を炊いて土の臭みを抜くなど、手入れにも代々ひときわ気を配っているという。すっぽんは滋養強壮のほか美容に効果があると女性にも人気の素材。火からはずしてなお、グツグツと沸き立ち、食べ終えるまで熱々の鍋を味わうと冷え切った体も芯からポカポカと温まるはずだ。

Photo/ Koichi Higashiya
Text/ Sawako Yamada