名古屋・新栄の路地裏にオープンしたのが2001年。そして、2010年に現在の場所に移転し、装い新たに第2ステージが始まった「壺中天（こちゅうてん）」。移転前より名古屋きってのフレンチの名店として知られ、現在もシェフの料理とマダムの心あたたまる接客、シニアソムリエのセンスが光るワインの選定を目当てに多くの人が訪れている。 オーナーシェフの上井克輔さんは、岐阜「ラーモニー・ドゥ・ラ・ルミエール」を経てヨーロッパへ渡り、イタリアやフランスで修業を積んだ経験の持ち主。 上井シェフの料理は自身の経験を活かした伝統的なフレンチに、個性豊かなアイデアを加えているのが特徴。また、どの皿も食べる前から期待が高まる、アートの才に秀でた美しい盛り付けも持ち味のひとつだ。スペシャリテであるコンソメジュレの前菜もしかり。シェフのスペシャリテであり、味や口どけが客に提供するタイミングで最高点になるよう計算して作られたコンソメジュレが主役だ。そのジュレにオマール海老やウニの味や食感が重なり、カリフラワーのクリームでやさしく包み込むようにまとめられた味わいは、何度食べても感動してしまうほど。

「気軽にフランス料理を楽しんでほしいという思いで店をオープンしましたが、カジュアルフレンチが多い世間の風潮を見て、逆に“正統派フレンチ”を目指すようになりました。現在はそのスタイルがやっと定着してきたように思います。まだまだやりたいこと、目指すものがたくさんあるので、ひとつずつクリアしたいと考えています」と語る上井シェフ。この飽くなき向上心と料理への強い思いが「壺中天」を進化させ、いつ訪れても舌と心に響く料理の源になっているのだろう。

Photo/ Hiroshi Mamiya
Text/ Yuko Morishita