東京・銀座の中央通りに面したビルの11階、12階にある「銀座シェ・トモ」。エレベーターから降り、タイル張りのエントランスに足を踏み入れた瞬間から、非日常の時間が始まる。ここは、「トロワグロ」をはじめ、フランスでの修業経験を持つシェフの市川知志さんが、白金の「シェ・トモ」（現在は「アトリエ・ド・アイ」として営業）に続き、2009年にオープンした店だ。同店で人気のスペシャリテ「生ウニの貴婦人風」（写真上）は、生クリームなどを合わせてふんわりと仕上げた卵料理を下層に、真ん中には新鮮な生うにを配し、一番上にはオマールえびのアメリケーヌソースをのせたもの。ひと口食べると、トロリとした舌ざわりとともに、うにの甘みが広がる。20年ほど前、市川さんが「生きたうにのおいしさ、感動を伝えたい」とひらめいた料理が好評を博し、以来、不動の定番メニューとなった。

今も、ディナーコースの最初には、必ず供される前菜だ。ベーシックなアメリケーヌソースを合わせているのは、「フレンチを日常的に召し上がらないお客様にも、コースの最初に、一瞬で『ヨーロピアンな舌』になっていただくため」と、市川さん。フレンチをできるだけ多くの人に楽しんでほしいというシェフの想いが込められた料理でもある。店内は、眼前に銀座の風景が広がる大きな窓に面した11階のカウンター席や、クラシカル・テイストを取り入れた12階の客席など、エリアごとに趣向を凝らしたインテリアとなっている。銀座の一等地にいながらにして、喧騒を忘れ、心ゆくまで美味を堪能する。そんな贅沢を叶えてくれる店だ。

Photo/ Akinori Maekawa
Text/ Ryoko Nakagawa