「コジト」は、六本木ヒルズの「グランド ハイアット 東京」近くにある、一軒家のフレンチ・ビストロ。小さなメインダイニングの隣には、葡萄のツルが絡まるガラス張りのテラス席もあり、晴れでも雨でも、空を身近に感じながら気持ちよく食事をすることができる。オーナーの山田実弘さんは、ブルゴーニュ地方を中心にフランス各地で研鑽を積み、本場の精神を日本に持ち帰ったことで知られる有名シェフ。季節折々で替わるメニューは折り目正しい正統派で、モダンフレンチ隆盛のこの時代に、いっそう輝きを放つ。夏に登場する「うにのスクランブルエッグ」も、一度食べたら忘れられないほどインパクトのあるひと皿だ。

この皿のボディとなるのは、裏ごししたあと卵とともにゆっくり火を入れた、とろとろ、ふわふわ、ビロードのようにしとやかな舌触りのうに。その上にさらに生うにをふんだんにのせ、香ばしい香りのするシャンピニオン（マッシュルーム）の白い泡で飾っている。スプーンで口に運べば、濃厚な旨みがずんと押し寄せ、思わず目を閉じてしまうほどのうっとり感を味わえるだろう。山田さんの料理はどれもクラシックな美しさをたたえ、ひと皿ひと皿の存在が大きく、食べたあとにしっかりとした印象を残してくれる。夏限定のこの料理も、頭の中がうにの思い出でいっぱいになるような、幸福なひと皿だ。

Photo/ Akinori Maekawa
Text/ Noriko Yokota