どっしりと大きな生牡蠣が目の前でクツクツと煮込まれ、赤味噌色に染まっていく。火が通るにつれ、牡蠣の身は締まり、はじけんばかりの様相に。敷かれた朴葉が色褪せ、鍋の縁で味噌が焦げ始めたら――待ってましたの食べごろだ。味噌が絡みついた牡蠣を箸でつまみ、ふうふうと冷ましながら口に運べば、火を通した牡蠣ならではの弾力ある歯応え。そしてすぐに、濃縮された潮味がほとばしり、味噌と朴葉の懐かしい風味が味覚に嗅覚に押し寄せてくる。寒気になると市場をにぎわせる真牡蠣は、三重県の桃取牡蠣、兵庫県の坂越牡蠣の大ぶりを主に仕入れる。どちらもきれいな海で育てられ、甘みが強いのが特徴だ。

「びんびや」の主人、吉岡茂樹さんは、魚の目利きに人一倍たけた料理人。割烹で磨いた技を持ちながらも、自店である「びんびや」には、“料理は上等、くつろぎは居酒屋級”という19年間変わらぬ思いを注いできた。旬の魚の刺身や塩焼きに加え、ポテトサラダや和牛ヘレカツなどわかりやすいメニューが並ぶので、初めての人でも安心して注文できるのがいい。

Photo/ Koichi Higashiya
Text/ Noriko Yokota