半蔵濠に面して立つONE FOUR TWO by tojoの9階にあるフレンチレストラン「アルゴ」。「アルゴ」とは、ギリシャ神話に登場する船のこと。大きく取られた窓から皇居の緑や丸の内のビル群、スカイツリーを眺めていると、まるで天空に浮かぶ船に乗っているかのような気持ちになれる。クラシックなフレンチを基本にした料理は、素材を大切にした軽やかなもの。付け合わせに力を入れ、メインの食材を引き立てるところに、シェフの田坂嘉隆さんの手腕が光る。たとえば、「ホタテのソテー　3種類のニンジン添え」では、付け合わせにはにんじん、黄にんじん、紫にんじんを使っている。それぞれを、にんじんらしい香りが鼻に抜けるコンフィ、甘みが際立つピューレ、サクサク感が楽しいチップスにし、3種類のにんじんの個性を3通りに楽しめるよう仕上げている。

手をかけて引き出されたにんじんのほっくりとした甘さが、エスカルゴバターをのせたホタテのミルキーな味わいと溶け合う幸せなひと皿だ。「素材の本来の味を、100％引き出したいといつも思っています。とくに、野菜は誰もが日常的に食べているもの。それが特別なおいしさであれば、より記憶に残るひと皿になると思うのです」と田坂さん。眺望だけでなく、木目や煉瓦を巧みに取り入れ、天井に雲を思わせる装飾をあしらった店内も、“天空船”の趣。心身が安らぐ美食とともに、航海を楽しみたい。

Photo/ Akinori Maekawa
Text/ Ryoko Nakagawa