四谷の地にオープンして20年あまり。本格的なフレンチファンに愛されてきたひと皿ひと皿は、北島素幸シェフの揺らぎのない料理への情熱、信念の賜物である。肉料理に定評のある重厚な味は、たとえば鳩を素材にした料理では鳩をまるごと一羽使うなど、豪胆。パン粉をつけてしっかり焼き上げたひと皿は、フランス料理の伝統の素晴らしさをあらためて思い起こさせてくれる。「家庭ではなかなか食べられない手の込んだもの、伝統的に受け継がれてきたフランス料理を、自分が培ってきた技術をもとに、イメージどおりに作り上げるだけ」と語る北島シェフの哲学は、シンプルで力強い。あれこれ食べ尽くした末に「とにかくおいしいものが食べたい」とやってくる美食家たちをうならせてきた自信が、その実力とともに垣間見える。

手間暇をかけて作られた料理の数々。驚くべきは、厨房にはオーブンがなく、すべてフライパンや鍋で調理されたものだということ。ジビエの季節にはベキャス（山シギ）や鴨、鹿などが登場。「ある程度の量がないと料理の本当の味はわからない」という信念のもと、ボリュームのあるポーションで“北島流フレンチ”の真髄を教えてくれる。

Photo/ Akinori Maekawa
Text/ HEARST FUJINGAHO