店を構えて16年の「せき根」。店主関根滉二さんは東京での修業を経て、生まれ故郷から遠く離れた名古屋に縁あって導かれた。女将と２人、足並み揃えて働く姿は開店当初から変わらない。舌の肥えた名古屋の数寄者が多く住む界隈という立地のため、受け入れてもらうまでには歳月を要した。だからこそ、積み上げてきたものが柔らかな重なりとなり、店全体を包む。「お客様に喜んでもらうため」その一つの志がこの店のモットーとなっている。その結果、家族でも楽しめる個室が生まれ、お弁当の予約注文ができるおもたせ専門店（旬菜弁当　2,310円～）をも開店に至らせた。優秀な漁場として名高い三河湾や伊勢湾の肉厚なあわびに牡蠣、車海老なども美味。

シンプルな調理法の和食でこそ生きる食材だ。特に愛知の日間賀島のふぐは下関に次ぐ水揚げ量を誇る。また、ここ濃尾平野は豊かな川が流れ、食材の産地としての条件が揃っている。加えて地元のだんな衆に腕を磨かれた職人が集うことも、名古屋の持つ大きな魅力と語る関根さん。今日も女将の筆による「せき根」の文字と共に暖簾がすきっと白木の門にかかる。心清らかに…、そんな言葉の似合う夫妻が営む名店に出かけたくなる。

Photo/ Naohiro Takahashi
Text/ Sayuri Hiratsuka