赤坂の大通りに面しているにもかかわらず、扉のむこうに広がるのは、驚くほど静逸な空間。天井に渡した太い梁や、カウンター奥に見える囲炉裏のある小間など、大胆で贅沢な空間の使い方は、小さな飲食店がひしめき合う赤坂では珍しい。料理長を務めるのは、京都の料亭で修業したのち、徳島の名料亭「青柳」で長年経験を積んだ中村英利さん。野菜と魚をおいしく食べてもらえるよう、創意工夫がなされた数々の料理が好評だ。「鍋料理は、野菜や魚をおいしく、思いのほかたくさん食べていただける料理のひとつです」と中村さんは言う。「花楽では、京都の職人に特注した水コンロを使っています。水コンロとは、水をはった器に、穴の空いた火皿、炭、網を順にのせ、鍋を置いたもの。水の対流によって炭の熱がやさしく伝わります。

勢いよく沸騰すると急いで食べなければと気がせいてしまいますが、水コンロならばゆったりとした気分で鍋を楽しめる。石川県金沢の酒蔵『福光屋』の酒を置くこの店では、盃を傾けながらの一献（いっこん）に最適なのです。」寒い時期には脂ののった魚や冬野菜を、早春になればさまざまな貝を。春たけなわになれば、花山椒の牛鍋を──この店では、季節によって、鍋を彩る素材もさまざまだ。鍋によっては、締めの食事を、雑炊にしてもらえるのが楽しみでもある。

Photo/ Kohei Nakamoto
Text/ Noriko Yokota