ホテルの中華レストランなどで料理長を務めた高木秋廣さんが、浅草橋で2004年にオープンした中華料理店「馥香（フーシャン）」。同店で名物となっている「馥香特製 担々麺」は、すり胡麻を油に浸して作る「芝麻醤（ヅーマージャン）」を使ったスープに、炒めた豚挽き肉やザーサイ、干し海老を載せたもの。一見オーソドックスだが、特筆すべきはそのバランスとまろやかさだ。芝麻醤にはピーナッツバターを加えてコクを出す一方、ラー油や山椒をほどよく利かせてピリリとした刺激をプラス。ベースのスープには、メスの地鶏から取る一番出汁と二番出汁を組み合わせてあっさりと仕上げ、上に載せる豚挽き肉などのしっかりとした味わいを下支えしている。この担々麺は、もともと、高木さんがまかないとして作っていたもの。1980年代から30年以上作り続け、今の味にたどりついたという。

「やさしい味わいと言っていただくことが多いですが、ポイントは砂糖の使い方です。表に甘さが出ない程度に加えるのがコツです」と、高木さん。この差し引きが、「スタンダードかつ特別なおいしさ」を生んでいる。担々麺の麺は、中華麺、山西省流手延べ麺、刀削麺の3種類から選ぶことができ、特に自家製の「手延べ麺」は人気が高い。小麦粉の素朴な味にこだわった麺は、モチモチとした食感とつるりとした喉越しが魅力だ。「馥香特製 担々麺」は、アラカルトでオーダーできるほか、一部のコースでは締めの一品になっている。高木さんが作る上海料理は、旬の野菜をたっぷりと使い、油分を感じさせることなく、そのみずみずしさを生かしたもの。熟練の技が光る料理と担々麺を、ぜひじっくり味わいたい。

Photo/ Akinori Maekawa
Text/ Ryoko Nakagawa