「なだ万」で30年以上の料理経験を持つ店主の阿部三郎さんが、銀座4丁目に開いた「天ぷら 阿部」。アットホームな雰囲気のなか、熟練の職人による揚げたての天ぷらが食べられるとあって、人気を集めている。ここで定番となっているのが、「鹿島産の肉厚の大地蛤」の天ぷらだ。波の荒い鹿島灘でもまれた蛤は、身にふっくらと厚みがあり、ボリューム満点。貝殻の内側にある膜を傷つけないようにそっとむき、火を通しすぎずレア状態に揚げられた天ぷらは、蛤のジューシーさと旨みがしっかりと感じられる。素材本来の味をさらに引き立てるのが、さっくりとして軽い秘伝の衣だ。小麦粉、卵の黄身、水だけで作る衣は、調理法もごくシンプルなもの。

小麦粉は粒子が細かい「スーパーバイオレット」を。衣が膨れるのを防ぐため卵は黄身だけを使っているものの、混ぜ方やタイミングを長年の経験によって調整し、この食感を実現しているという。揚げ油には、国内で搾られているため鮮度が高い岡村製油の「綿実油」と、竹本油脂の「太白胡麻油」をブレンドして使っている。こだわりの素材と職人技によって作り出される天ぷらは、いくら食べても胃もたれしにくいと、年齢・性別を問わずファンが多い。また、地蛤をはじめ、多くの野菜や海産物を産地直送で仕入れているのも特徴で、春はフキノトウ、コシアブラといった山菜の天ぷらが味わえる。四季折々の味覚を、揚げたて、あつあつで楽しみたい。

Photo/ Akinori Maekawa
Text/ Ryoko Nakagawa