1枚を焼くのに15分はかかるだろうか。桃色の地鶏がじわじわと炙られ、こんがりと色付き、鶏脂がにじみ出ては落ちる。遠赤外線の力で皮目は次第に乾き、黄金色を呈し、カリッ、サクッと音をたてるほどの焼きあがりに。一方の身はやわらかく、弾力があり、噛めば噛むほど鶏の深い味が口いっぱいに広がる。店主の中村憲幸さんは、熊本の地鶏「天草大王」に惚れ込んだ炭火焼き職人。備長炭を駆使し、炭火の温度差を見分けながら、地鶏をじっくりと焼きあげる。天草大王は最大で背丈が90cmにもなる大型種だが、体はシャープで肉質はきめ細やか。熊本コーチン、シャモ、中国のランシャン種の良いところを受け継いだ威容で、味も歯応えも抜群だ。

炭火焼きメニューで中村さんが行う味付けはオーストラリアの湖塩をふるのみ。ミネラルの余韻が長く続く不思議な塩で、これが鶏肉のうまみ、炭火の香ばしさとあいまってなんともおいしい。おすすめは9皿（野菜、天草大王、尾崎牛、土鍋白ご飯、スープなど）からなる4,800円のコース。炭火で焼かれた野菜のうまさにうなり、ひと皿のボリュームにも満足できる内容となっている。

Photo/ Koichi Higashiya
Text/ Noriko Yokota