磨き上げられたカウンター席に腰を落ち着けると、オープンキッチンとの距離の近さに圧倒される。鼻孔をくすぐる香り、活気、音…料理が作られていく過程が直に感じられるほどに期待が高まる。大阪での修業の後、「フレンチ激戦区で勝負したい」と神戸の地に店を構えた大川尚宏シェフ。1989年にオープンした店は舌の肥えた地元のお客様に愛され、鍛えられてきた。「原点はおいしいこと。昼夜ともにおまかせなので、トータルで喜んでもらえる料理を」とシェフ。ランチの定番として変わらず出されているのが「野菜畑と海の幸の一皿」。「野菜の生命力をしっかり見せる、畑にあるような自然なイメージで作っています」と供されるひと品は目を見張るほどにみずみずしく、ため息がもれる。

酒蒸しにしたトコブシ、ハーブティーで茹でた小ダコ、軽く燻製をかけたホタルイカ、炭火焼きの帆立貝など魚介に負けない存在感を放つ野菜たちも蒸したり、焼いたり、昆布出汁でボイルしたりとそれぞれに工夫が。青々しい香りや酸味、甘みが次々に口の中で弾けるたびに心が躍る。「料理は常に進化し続けるものだと思います。今、ライバルと意識しているのは日本料理ですね」と話すシェフは、和の手法や考え方などに興味津々だそう。新しいアプローチを楽しみに出かけたい。

Photo/ Koichi Higashiya
Text/ Sawako Yamada