毘沙門天のほど近く、早稲田通りから一本入った場所にある「神楽坂 石かわ」。2003年のオープン以来、店主の石川秀樹さんによる、和食の粋と創意が感じられる料理で人気を集め、ミシュランガイドの三つ星にも輝いている。黒い板塀に囲まれた現在の店舗は、2008年に移転したもので、神楽坂の路地にしっとりと溶け込んでいる。石川さんの料理は、「主張しすぎない、シンプルでほかにないもの」。たとえば、「新玉ねぎと牛しゃぶしゃぶごはん」では、白米と新玉ねぎを出汁と薄口醤油で炊き、生の牛肉をのせている。炊きたてごはんと混ぜることで牛肉に火が通り、しゃぶしゃぶのように楽しむ趣向で、牛のうまみや新玉ねぎの甘みを堪能することができる。

さらに、料理を引き立てるのが、石川さんが自ら集めた器の数々だ。「蒸しあわび」を、青色が美しい明代中国の古染付に盛るなど、時を経たものから現代作家の作品まで、審美眼が光る器の数々が、美味との幸せな出合いを演出してくれる。味、そして器との一期一会を楽しみに、繰り返し訪れたくなる名店だ。

Photo/ Akinori Maekawa
Text/ Ryoko Nakagawa