2010年４月、27歳の若さで店を構えた栫山一希（かこいやまかずき）さん。神戸の料理店を皮きりに、兵庫・有馬温泉や東京で日本料理の研鑚を積み、「和の料理の中に何か新しいものをプラスしたい」と神戸のフレンチレストラン「ルセット」へ。ジビエ料理なども学んだ気鋭の若手である。メニューは昼・夜それぞれ3種のコースのみ。昼は季節感あふれる八寸を用意、デザートの盛り合わせにお抹茶を添えるなど女性客を意識したおもてなしを。接待などの利用が多い夜の部は「作りたての料理をお酒とともにゆっくり楽しんでいただきたい」と前菜や珍味など酒肴を充実させた会席で迎える。「春の貝類と春の旬菜寄せ」は夜のコースの前菜。ウルイや菜の花、一寸豆、ノビル、コゴミ、タラの芽、ツクシ、春蘭はそれぞれの持ち味を生かし、塩や出汁で味をととのえてある。

生の赤貝や漬けにした鳥貝、ボイルしたホッキ貝、低温調理を施したアワビ、炙ったホタテ貝など春に旨みを増す貝類とともに楽しむ趣向だ。「春野菜は苦みもあり、個性の強い素材。この季節ならではの恵みをしみじみおいしいと感じていただけるよう、独特の食感や味わいを大切にしながら旨みを引き出しています」と栫山さん。貝類の自然な甘みとのバランスも良く、カツオ出汁と合わせ酢で作ったジュレが爽やか。目にも鮮やかな緑のグラデーションが春の息吹を実感させてくれる。

Photo/ Koichi Higashiya
Text/ Sawako Yamada