おばんざいの大鉢が並ぶカウンター越し、店主・松本隆司さんの笑顔に迎えられるとそれだけでわくわくする。20年のエンジニア生活を経た松本さんが「人が好き。会話が弾む、大人のためのくつろぎの場を」と祇園・縄手に店を構えたのは1996年。茶懐石からフレンチ、中国料理まで幅広く主に独学だという料理は時とともに進化し続ける。現在の史蹟・一之船入に隣接する町家の１階に店を構えて8年目。空間はもちろん、器やしつらいなど細部にいたるまで、松本さんのセンスの良さがうかがえる。「料理はお好きなものをお好きなだけ」の言葉通り、会話しながら決めていくスタイル。

沖縄の希少なパイナップルポークをしゃぶしゃぶでいただく「酒粕なべ」は吟醸の酒粕2種を1年寝かせたものに焼酎やニンニク、ショウガを加えたベースで炊く。芳醇な香りとまろやかな口当たり、さわやかな柚子が脂のさらりとした肉の甘みを際立たせる。その日食べたいもの、飲みたいお酒など会話の中から生まれる献立を楽しめるのは大人だけの特権かもしれない。

Photo/ Satoshi Yasukouchi
Text/ Sawako Yamada