大阪・千里山、閑静な住宅街の一角に佇む「柏屋」。ミシュランガイド2015においても三つ星を獲得、その名は海外にも広く知られる料亭である。店主の松尾英明さんは学生時代に茶の湯と出合い、深く感銘を受けた。さらに茶の道と料理を極めんと滋賀の名店「招福楼」にて研鑚を積む。「お客様に一杯のお茶を献上する、そのために料理を含め、空間、庭、器などすべてに心を砕いて演出をする……そこにおもてなしの原点、日本文化の結晶があると感じました」と松尾さん。1993年、実家の和食店を引き継いだのを機に数寄屋建築の匠・中村利則氏に依頼、現在の建物を築き、料亭「柏屋」が誕生した。料理のひと品ひと品にも渾身の姿勢がうかがえる。たとえば、お椀。馥郁とした香りと澄み切った味わいに陶然とする出汁は、道南産真昆布をひと晩水出ししたものをベースに。鰹節は枕崎産本枯節の中でも油脂分の少ない雄節（背側）の表面を削り芯の部分のみを使う。きわめて繊細で端正な仕事の積み重ねが忘れがたい味わいを生む。その一方で、南米産の穀物・キヌアを葛で練って椀種にしたり、松の実を水で溶いたものを牛乳代わりに小芋の裏ごしと合わせ「雲龍焼（和風スフレ）」を作るなど、新味の追求にも余念がない。

主人と賓客がお互いに心を和らげてつつしみ敬い、茶室の空間や雰囲気を清らかにするという「和敬清寂」の精神。どの茶会も一生に一度のものとして誠意を尽くす「一期一会」の心得。そんな先人たちの思いが随所に息づく「柏屋」のおもてなし。大切な人と過ごす時間を、さらに深く記憶に刻まれるものにしてくれることだろう。

Photo/ Koichi Higashiya
Text/ Sawako Yamada