徳川御三家・尾張藩の城下町として栄えた名古屋には、三英傑をはじめ、茶の湯発展に携わった歴史上の人物が多い。そんな先人たちより受け継がれてきた、伝統文化である茶道が盛んなこの地で「最も茶に適った料亭」との呼び声高い「志ら玉」は、全国に名が通る茶懐石の料亭として知られている。古い商家をはじめ、江戸時代に建てられた奥三河の田舎屋や京都の茶室「笑庵」を600坪の敷地に移築。趣ある各建物の風合いが調和し、茶味あふれる懐石家具や装飾品が亭内を彩る。また、季節に合わせた花や掛物でその装いを変える客室からは、手入れの行き届いた中庭を望むこともできる。随所に光るもてなしは、空間や道具も愛で楽しむ茶の湯の心に通じ、胸を打たれる人も多い。

季節を目と舌で感じる料理もしかり。「ここ名古屋は、三河湾や伊勢湾などで採れる海の物をはじめ、山の物や調味料に至るまで食材の宝庫です。産地だからこそ味わえる質の高い旬の素材を、おいしく召しあがっていただくことが一番のご馳走だと思っています」という店主の言葉通り、どの皿も地元で採れた新鮮な食材を使用し、職人により丁寧な仕事が施されている。調理法も和にとらわれ過ぎず、素材の持ち味を最大限に活かしたものを用いているそう。料理は店主の目利きで揃えられた雅趣に富む器に美しく盛り付けられ、ここでもまた、茶道に精通した料亭らしさを覚える。昼夜ともコースの内容は同じだが、昼のみこれらの料理がよりお値打ちに楽しめる特別懐石（蘭）も用意。食後に供される自家製の和菓子と抹茶で、最後まで茶人のもてなしを堪能してほしい。

Photo/ Hiroshi Mamiya
Text/ Yuko Morishita