1870年、京都・丹後の料理旅館として創業した「和久傳」。高台寺の本店ゆずりの味ともてなしをカウンター席で、より気軽に楽しめるのが「室町和久傳」だ。昭和初期に建てられたもと呉服店の町家を改装、京らしい情趣とモダンさが共存する空間には、どこか懐かしい空気が満ちている。「旬の素材を直球で味わっていただきたい。『今日はこれを食べた』と印象に残るような出し方や味わいを心掛けています」と藤山貴朗料理長。たとえば、5～6月に旬を迎える丹後の岩牡蠣（イワガキ）はなんとまるごと天ぷらに。木の芽と実山椒醤油をアクセントに利かせ、クリーミィーで濃厚な牡蠣の個性を生かしている。同じ岩牡蠣をお好みによってはお造りにしたり、カウンターの炉で炭火焼きにすることも。

「素材の持つ魅力を最大限に味わうにはどんな調理法が適しているのか？ そんな冒険をお客様と一緒に楽しんでいきたいですね」。また「活穴子の薄造り」は「和久傳」に伝わるオリジナルメニュー。夏になると脂の乗った丹後産の穴子が登場するのも楽しみだ。時に繊細にあるいは大胆にと、緩急に富んだ内容で魅せるコースには未知の味との出合いや感動がちりばめられている。初夏から夏へと向かう季節は鮎に鱧、賀茂茄子など美味な素材が目白押し。料理長の腕もますます冴えわたることであろう。

Photo/ Koichi Higashiya
Text/ Sawako Yamada